みなさんは『差し入れ屋』という店をご存知だろうか。
会社の同僚に持っていく食べ物なんかを売ってるところ?
いえいえ、そうではない。
その店は、拘置所に収監されている人たちへの『差し入れ』を売っているのだ。
というわけで一般の人はまず立ち入ることはないであろうその店に、今回足を運んでみた。
昭和の雰囲気漂う店内に入ると
タイムスリップしたような感じに
目指したのは東京都葛飾区、東武伊勢崎線の小菅駅に程近い『東京拘置所』。
ここは主に、告訴されて裁判中の被告人や懲役が確定して刑務所への移送待ちの受刑者、そして死刑確定者が約3000名収容されている日本最大規模の施設である。
そんな妙なオーラ満載の建物が幅を利かせているからか、周辺の街中の空気はかなりどんより。
昭和レトロな雰囲気たっぷりの下町といった街並みなのだが、昼過ぎにも関わらず歩いている人は数えるほどしかいなかった。
そんな街並みの中でもひときわ昭和臭をプンプンと匂わせる建物を発見。
東京拘置所の駐車場入り口の対面にある、木造二階建ての商店、それが噂の『差し入れ屋』だった。
昔は入りやすかったのだろうが、今の時代は逆に入りにくい外観。
少し緊張したが、意を決して敷居をくぐってみると、街中にいた以上に昭和へタイムスリップしたような感覚に襲われた。
お菓子にジュースにパンツにタオル
雑誌類にはまさかのどエロ本が !
店内に入ると、真っ先に目に飛び込んできたのが『桃缶』だ。
緑の地にピンク色の写実的な桃のイラストが描かれている、あの『桃缶』である。
アラフォー野郎には、心の奥底をキュッとさせる魔力を持つそれに魅入られてしばらくフリーズしてしまったが、数秒後、気を取り直して店内を見渡してみた。
品揃えは決していいとは言えず、というか昔よくあった、『おばあちゃんがやっている本当に営業しているのか怪しまれる住宅街の中にポツンとある閉店直前の商店』的に、扱っている品物はかなりすくなかった。
ただ違っていたのは、品数は少ないものの各商品のストックは多く、それゆえ今もしっかりと営業していることが伺えるのである。
置いてあった品物は大まかに分類すると3つで、パンツやタオルといった日用品、お菓子やジュースなどの飲食品、そして週刊誌やマンガなどの雑誌類だった。
不自由な生活を強いられる拘置所内の収容者たちにしてみたら、どれも喉から手が出るほど欲しいアイテムなのだろうことは想像に難くないが、1つ不可解な品物を発見した。
雑誌類のコーナーに、なんとエロ本が置いてあったのだ。
しかも、コンビニで売っているテープが付いたエロ本ではなく、『18禁マーク』の入った書店売りのいわゆる『どエロ本』だったのである。
禁欲生活を送っている収監者にとって、これが有難い差し入れ物なのか、はたまた迷惑物なのか…、収監されたことのない人にとっては正解を導き出すことはできなかった。
受刑者が食べていいのは
差し入れ屋で購入したものだけ!
ひと通り店内を物色し、さすがに何も買わずに出ていくのは…と思い、適当な週刊誌を1冊購入していくことにした。
店内にはおばちゃんが1人、ずっと何かの台帳に向かって文字を書いていたので、雑誌を差し出した。
すると「差し入れですか? 収監番号は?」とおばちゃん。
差し入れではない旨を伝えると、怪訝そうな顔をされた。
それはそうだ。
実はこの差し入れ屋から徒歩1分圏内にコンビニがあり、普通の買い物はそっちへ行けばできるからだ。
とは言ってもそこは商売人、その後は普通の顔に戻り、普通にお金のやりとりをして、普通に店を後にすることができた。
しかも買い物をする時に、少しだけ話しをすることができて、なんでも収監者にできる食べ物の差し入れは、ここで買ったものしかできないそうなのだ。
しかも、差し入れ屋から直接拘置所へ送られたものだけで、ここで購入して自分で直接持っていったとしてもNGを食らうそうだ。
こんな特権を与えられているだけに、差し入れの依頼は毎日多数くるようだ。
差し入れ方法は超アナログで、店内に売っているものを購入し、収監者の名前、収監番号、自分の名前等を台帳にボールペンで記入するだけである。
ちなみに、差し入れの手数料が取られるかどうかは、教えてもらえなかった。
ただ、雑誌を除くほとんどの商品が定価だったので、それが手数料代わりなのではないかと思われる。
世の中いろんな商売があるものだ、と感慨にふけながら、小菅を後にしたのだった…。
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